近年はグローバル化が進み、海外へ出かける人が多くなりました。
旅行だけでなく、ビジネスや留学などで長期に滞在するという例も急速に増えているようです。
渡航する人の増加にともなって、現地で性交渉を持つ人の数も大いに増えていくでしょう。
そうなると、日本ではすでに根絶されて過去の病気になっているような性病にかかってしまうということもあるかもしれません。
その一つに、性病性リンパ肉芽腫という性病があります。
過去は日本でも患者が多く、第四性病とも言われたこの性病も今や日本では忘れ去られています。
しかし、海外においてはいまだに健在ですので、海外でセックスをした人は可能性として頭に入れておく必要があるでしょう。
この記事では性病性リンパ肉芽腫について解説しています。
目次
昔はポピュラーな性病だった性病性リンパ肉芽腫
1999年に性病予防法が廃止されるまでは、性病と言えば梅毒、淋病、軟性下疳、性病性リンパ肉芽腫(LGV)の4種類しかありませんでした。
過去の呼び名である”鼠径リンパ肉芽腫”の方が馴染みのある人もいるかもしれません。
性器に丘疹や潰瘍を生じ、鼠径リンパ節などが腫れる性病です。
病原菌は性器クラミジアと同じクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)なのですが、異なった血清型(L1、L2、L3)を持ち、同じものではありません。
前述の通り、性病予防法の4つの性病に含まれていたくらいですから、過去には日本でも珍しいものではありませんでした。
しかし、1979年に1例が厚生省(今の厚生労働省)に報告されてからは罹患率が0となり、その後は公式に報告はされていないようです。
現在では、実際に診たことがない医師がほとんどなので、見逃されている可能性もあると考えられます。
海外ではいまだに健在の性病ですので、海外で性交渉を持った方は可能性として考えておく必要があります。
現在でも性病性リンパ肉芽腫が発生する国
熱帯に多く、アフリカの一部,インド,東南アジア,南米,およびカリブ海諸国。
アメリカでも散発的に発生。
性病性リンパ肉芽腫の感染経路と潜伏期間
性病性リンパ肉芽腫の感染経路
感染者と
- 膣性交
- アナルセックス
することで感染します。
詳しい報告は見つけられませんでしたが、皮膚の病変に病原体が存在するため性器同士での接触でも感染すると考えられます。
コンドームの使用によって感染リスクを下げることはできますが、皮膚病変がコンドームに覆われずに露出していれば予防効果は望めないでしょう。
性病性リンパ肉芽腫の潜伏期間
性交渉から3日~1週間経ってから、外陰部や肛門に小丘疹が発生。
さらに1週間くらいで発熱があり、感染後2~4週間で鼠径リンパ節や大腿リンパ節が腫れます。
性病性リンパ肉芽腫の感染者数
1979年に1例の報告があってからは正式な感染者は出ていません。
1998年施行の感染症法でも指定感染症にも入っていません。
しかし、1990年に発表された論文「ク ラ ミジ ア に よ る陰 嚢 皮 下 肉 芽腫 の2例」で性病性リンパ肉芽腫に類似したクラミジアによる陰のうにできた肉芽腫が報告されています。
この報告された症例は、1例は海外渡航者(フィリピンで現地の人と性交渉)、もう1例はバイセクシュアルの人でした。
報告者が調べたところ、似たような症例報告が過去10年の間に24例見つかったそうです。
主病変がリンパ節から陰のう皮膚になっている以外は性病性リンパ肉芽腫と症状が非常に似通っていて、かつクラミジア感染による疾患であることから、性病性リンパ肉芽腫に近い疾患であると筆者は結論づけています。
このことから、性病性リンパ肉芽腫は現在でも見過ごされたまま発生していることが十分に疑えるのです。
性病性リンパ肉芽腫の症状
感染から3日~1週間で、男性では
- 会陰部
- 肛門
女性では
- 外陰部
- 膣
- ときに子宮やノド
に単純ヘルペスに似た数mmの疱疹ができ、やがて潰れて潰瘍になります。
この潰瘍は単発で痛みなどの自覚症状がない上に自然に治ってしまうので、本人も気づいていない場合があります。
その後、1週間で
- 発熱
- 倦怠感
- 頭痛
- 関節痛
などが起こることがあります。
同時に、男性の場合は主に
- 鼠径リンパ節
- 大腿リンパ節
女性の場合は
- 深部後腹膜リンパ節
- 骨盤リンパ節
が硬く腫れ上がります。
やがて圧痛をともなう膿瘍となって軟らかくなったあと、最終的には破れて膿が出てきます。
女性では
- 腰痛
- 下腹部痛
が起こることがあります。
その後まれに、男性では陰のうや陰茎が、女性では大小陰唇が象皮病になることがあります。
直腸に感染すると、潰瘍性直腸炎になり狭窄を生じることもあります。
性病性リンパ肉芽腫の治療法
テトラサイクリン系、マクロライド系の抗生物質の内服を行います。
一般にはドキシサイクリンやエリスロマイシンが使用されます。
近年、性器クラミジアの治療に効果を上げているアジスロマイシンやクラリスロマイシンも効果的だと言われていますが、ほとんど症例がないので十分な評価は得られていません。
性病性リンパ肉芽腫の検査
性病性リンパ肉芽腫の存在する地域の人と性的行為があったことと、疑われる上記のような症状が存在する上で、膿からクラミジアを検出する、抗体価の上昇、ELISAやPCR法による抗原検査から判定します。
日本ではほとんどまれな性病ですが、海外でエッチした経験のある人は性器に潰瘍ができた時には考慮すべき性病です。
海外へ行っていない人は気にする必要はないでしょう。
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