パプアニューギニア

日本ではまず耳にすることはないですが、性器に潰瘍を起こす鼠径部肉芽腫という性病があります。

世界でも、熱帯や亜熱帯にある国々に散発する風土病なので、日本で発生することは極めてまれでしょう。

日本の性病を診ているお医者さんでも、実際に患者を診た先生はほとんどいません。

しかし、該当する国へ旅行したり、特に長期滞在していた人は可能性として考えておかないといけない病気です。

日本皮膚科学会でも、性器に潰瘍があった場合の鑑別診断すべき性病の1つとして取り上げています。

この記事では鼠径部肉芽腫について現在わかっている情報についてまとめてあります。

赤道直下の国では珍しいとは言えない性病

赤道の国

 

鼠径部肉芽腫の原因菌はカリマトバクテリウム(Calymmatobacterium granulomatis)というグラム陰性桿菌です。

性病性病性リンパ肉芽腫(鼠径リンパ肉芽腫)に続いて第5性病とも呼ばれます。

鼠径リンパ肉芽腫と名前がややこしいですが、鼠径部肉芽腫はまったく違う病気です。

世界では極めてまれですが、熱帯や亜熱帯の国では風土病として存在し、パプアニューギニア・オーストラリア北部などのオセアニア、インド、アフリカ南部、ブラジルなどで報告されています。

ジャマイカでの性器に潰瘍を起こす性病の比率を調べた報告では、性器ヘルペス7.8%、梅毒18.8%、軟性下疳13.3%、鼠径リンパ肉芽腫症3.9%、鼠径部肉芽腫症2.3%となっています。

性器に潰瘍を起こす性病としてもっとも多い梅毒の8分の1ですから、現地ではそれほど珍しいものではないことがわかります。

 

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ですから、日本人でも旅行やビジネスで渡航し、現地の人とセックスをしていれば感染していてもおかしくないのです。

鼠径部肉芽腫の感染経路と潜伏期間

いつ感染するかわからないクラミジアのイメージ

鼠径部肉芽腫の感染経路

感染者と

  • 膣性交
  • アナルセックス

することによって感染するといわれています。

 

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自家感染(自分の病変から別の部位に広がる)するうえ、口や顔面への発症もあることからクンニリングスやオーラルセックスでの感染の可能性もあるでしょう。

鼠径部肉芽腫の潜伏期間

潜伏期間のイメージ

感染後、1週~3ヶ月(一般には3~15日)で感染部位に赤い肉色のしこりがゆっくり大きく盛り上がってきます。

鼠径部肉芽腫の感染者数

日本では1951、1975、1986年にいずれも男性患者が報告されています。

1987年には日本で唯一の女性患者の発生が報告されています。

 

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この女性患者は21歳の妊婦で、本人も配偶者も海外へ行った経験がなく、なぜ、どこから感染したのかわかりません。

鼠径部肉芽腫の症状

1週間~3ヶ月で発症し、性器に進行性の潰瘍を生じます。

はじめは、痛みのない肉のような丘疹・結節と呼ばれるしこりができます。
やがて、拡がっていき盛り上がってきます。

時間とともに表面はただれ、肉芽腫性(ビロードのような)の潰瘍になっていきます。
簡単に出血し、周囲が堤防のように盛り上がっているのが特徴です。

自家接種により拡がりやすく、それぞれが融合して巨大化していきます。

二次感染を起こして軽い痛みが生じることがあります。

好発部位は男性では、

  • 陰茎
  • 陰のう
  • 鼠径(股の付け根)
  • 太もも

女性では、

  • 外陰部
  • 鼠径
  • 肛門周囲

で、時に膣や子宮膣部に潰瘍ができることもあります。

性器以外には、顔面、唇、口腔粘膜や頭皮に生じることがあります。

また、体表だけでなく、骨、関節、内蔵に発生することも報告されています。

鼠径部肉芽腫の治療

性病治療薬

テトラサイクリン系,マクロライド系,およびトリメトプリム-スルファメトキサゾールの内服を行います。

ドキシサイクリン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、トリメトプリム-スルファメトキサゾール(バクトラミン)が推奨されています。

代替として、注射でセフトリアキソンを使用することもあります。

投薬は3週間継続して終了しますが、広範囲だと治癒に時間がかかって再発することもあります。

鼠径部肉芽腫の検査

衛生検査所

鼠径部肉芽腫が風土病として存在する地域でセックスをした経験があり、性器に肉様の盛り上がる潰瘍病変があるのなら疑う必要があるでしょう。

診断には、病変の分泌液や膿から病原菌を確認することで行われます。

生検(バイオプシー)や抗体価の測定を用いることもあります。

 

nicol説明

菌の確認はマクロファージという免疫細胞内にあるドノヴァン小体(細胞質内にいるカリマトバクテリウム)を観察することで行います。

 

日本で唯一の女性患者の例では、海外へ行った経験がないにもかかわらず21歳の若さで感染しています。

そのことを考えると、鼠径部肉芽腫が風土病として存在する国へ行ったことがなくても、陰部に盛り上がるような潰瘍ができている場合は、可能性の1つとして考える必要があるかもしれませんね。

参考MSDマニュアル

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