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制圧されていくと思われていた梅毒
昔は梅毒の効果的な治療薬はなく、いったん発病してもどうすることもできないため、手をこまねいて見ているしかありませんでした。
そして病期が進むと、やがては鼻が崩れて落ちてしまったり、あるいは脳がやられて死んでしまうという恐ろしい病気でした。
しかし、1940年代に特効薬のペニシリンが発明されて状況は一変。
早期に治療を始めれば、問題なく治る性病となったのです。
長きに渡り人間を悩ませてきた梅毒も、コンドームの普及とペニシリンにより患者数はどんどん減少し、このまま制圧されていくと思われました。
ところが、2000年前後で底を打った患者数は日本を含む先進諸国で上昇に転じ、いまだに増加の傾向に衰えはありません。
日本では現時点(2016年9月)で去年(2015年)1年間の患者数を超えてしまいました。
歴史の中から蘇った梅毒はもう過去の性病ではなくなったのです。
梅毒の感染ルートと症状を抑えておこう
梅毒患者がここまで増えてしまっていることは由々しき事態ですが、淋菌のように治療薬が効かなくなっているわけではありません。
梅毒への予防を心がければ恐れる必要はないのですが、対策をするためには梅毒について理解を深めて、患者が増えている理由を探らなければなりません。
まずは感染ルートと症状についてしっかり頭に入れておきましょう。
梅毒は4つのステージがあり、それぞれの病期で特徴的な症状を現します。
治療法が確立してからは3期、4期まで進むことはほとんどありませんので、ここでは感染ルートと1期、2期の症状についてポイントを抑えておきましょう。
梅毒については他の記事で詳しく説明していますので、もっと知りたい方はそちらを参考にしてください。
感染ルート
梅毒は病原体である梅毒トレポネーマという細菌の一種が、後述する硬性下疳やバラ疹を介して皮膚や粘膜に付着することで感染が成立します。
発疹との接触で感染するので、通常のセックス(膣性交)はもちろん、アナルセックスやオーラルセックスでも伝染ります。
陰部以外に発疹があれば、キス(体へのキスも含む)や肌と肌が触れ合うだけでも感染します。
第1期の症状
梅毒トレポネーマが侵入した皮膚や粘膜には硬結(しこり)が生じます。そのうち中央部が潰瘍になります。この発疹のことを硬性下疳といいます。
他の性病と見分けるポイントとしては、発疹を触ってみると軟骨のように硬いことと、潰瘍になっているのに痛くないことです。
- 硬いことから硬性下疳と呼ばれる(下疳とは潰瘍のこと)
- 見た目痛そうなのに痛くない
そしてもう1つ覚えておきたいのが、梅毒に感染してから硬性下疳が出現するまで少なくとも3週間はかかるということです。
つまり、心当たりのある行為があってから2週間の時点で、もし発疹を見つけてもそれは梅毒ではないということ。
逆に考えると、最初の2週間までで症状が出なかったからといって、梅毒にかかっていなかったと安心することはできません。
さらに注意しないといけないのは、3週間までは梅毒に対する抗体が検出されないので、この時期に梅毒検査を受けても陰性の結果が出てしまいます。
検査を受ける時は、心当たりの行為をした日から必ず3週間以上空けてから受けるようにしましょう。
焦って早めに検査を受けたら、陰性の結果が出て、「感染していなかった~」と胸をなでおろしても、実は感染していたということもありえます。
第2期の症状
硬性下疳は数週間もすると段々と治ってきます。けっして見た目に良くなっているからといって安心してはいけません。
何もない静かな時期が4~6週間続いてから第2期の症状が現れてきます。
特徴的なのが有名な”バラ疹”。
全身にバラ状の赤い発疹が出てきます。色が薄く斑状(盛り上がっていない)の病変です。特に手の平や足の裏に多く出てくるようです。
バラ疹は痛みも痒みもない上に薄く目立たないこともあって、本人も見過ごしてしまうことがあります。
第2期にはこれだけではなく、さまざまなタイプの発疹、発熱、髄膜炎や粘膜疹など多様な症状が出てきます。
第1期、第2期ともに特徴的なので梅毒と推定するのは簡単ですが確定はできません。病気の症状は一般的でないものもありますので診断には性病検査が必要です。
梅毒の治療と注意するべきリスク
前に述べたように梅毒は治る病気です。天然ペニシリンのバイシリンGや合成ペニシリンのアモキシリン(AMPC)やアミノベンジルペニシリン(ABPC、別名:アンピシリン)を服用することで治療することができます。
しかし、病期が進むほど治りにくく、第1期では2~4週間で治癒するところが、第2期になってしまうと4~8週間も飲み続ける必要があります。
運悪く発見が遅れて第3期以降に入ってしまうと、8~12週間もの長い間、服用しなければなりません。しかも、第3期になるとゴム腫によって鼻が落ちてしまったりして大きな損傷を残してしまいます。
初期の症状を見逃さずに、いち早く治療に入ることが大事なのです。
この早期発見のために覚えておきたいのが、硬性下疳は性器の目立つ場所に発生するとは限らないこと。
ペニスや陰部の周囲にできたものは自分で気づくことが多いでしょう。しかし、梅毒の厄介なのは自分の見えないところにできたり、粘膜部にできたりした時です。
症状で説明したように、硬性下疳は痛みも痒みもありませんから、本人から見えない部分にできてしまうとなかなか気づけないのです。
パートナーが気づいてくれればいいですが、そうでないと本人の病期は進み、知らない間にパートナーにも感染させてしまうことになります。
もう1つ注意しておきたいことが、梅毒は治療を受けて完治したとしても、何度でも再感染して発病するということ。
クラミジアや淋菌と同じく、何度かかろうと免疫はできないのです。
1度かかったからといって油断していると、また痛い目にあっちゃいますよ。
- 病変は性器の目立つ場所にできるとは限らない
- 梅毒は終生免疫を得られないので何度でも感染する可能性がある
性的嗜好がバラエティになるとともに梅毒が増加
前に書いたような梅毒の特徴を理解していると、なぜ?最近になって梅毒が増加してきているのかが見えてきます。
次のグラフは他の記事でもご紹介しましたが、ここに再掲します。
これは男性梅毒患者がどの感染ルートで梅毒にかかったのか、この十年ほどの変化をグラフにしたものです。
この結果では男性同性間の性的接触による患者が右肩上がりで増え続けているのが目を引きます。
まず、この理由について考えてみましょう。
年々、男女の患者数の差は縮まっていますが、それでも男性患者は女性の約3倍も発生しています。
アナルセックスの増加
グラフを見れば誰でも容易に想像できると思いますが、男性同性愛者の数そのものが増えていることが1つの理由として挙げられるでしょう。
大々的な統計調査は見つけられませんでしたが、社会を見渡した時に昔に比べ同性愛者が増えていることは実感できるのではないでしょうか。
では、男性同性愛者の性的接触、つまりアナルセックスが増えると、なぜ梅毒感染が広がるのでしょうか?
肛門や直腸に硬性下疳ができていると本人もパートナーも気づきにくいために、お互い気づかないままうつしてしまい、どんどん感染を広げてしまうということは十分考えられます。
しかし、これは通常のセックスで女性の膣内や子宮口にできていても同じことです。アナルセックスの方が梅毒にかかりやすいという理由にはなりません。
ですが、直腸粘膜は傷つきやすいので、アナルセックスの方が感染しやすいということは言えると思います。
でも、それだけでこの増加を説明できるのでしょうか?
そこで理由として最も考えられるのは、コンドームの使用率の違いです。
十分とはいえませんが梅毒もコンドームを使用することで感染リスクを下げることができます。
しかし、アナルセックスは妊娠の可能性がないので、コンドームを使用することは通常のセックスに比べて大幅に少ないのではないでしょうか?
このことがアナルセックスで梅毒の感染率が高くなる理由と考えられます。
オーラルセックスの普及
もう1つはオーラルセックスの普及にあると考えられています。
性体験のある男女にアンケートを取ってみると、約半数の方にオーラルセックスの経験があります。いまや普通の性的行為として定着した感がありますね。
そして、オーラルセックスは男女間だけでなく、男性同性愛者の性行為としても普通に行われるのです。
また、梅毒の発疹は、先ほど挙げた膣内、肛門、直腸と同じように、口の中の病変も見逃されることが多いと言われています。
加えて、アナルセックスと同様に、コンドームをはめて行為する人は少ないのです。
アンケートでオーラルセックスの時にコンドームをはめて行なっているかを聞いたところ、まったくコンドームを使わない人が80%を超えていて、使う人も使ったり使わなかったりが多く、必ず使う人は5%に過ぎませんでした。
これらのことが梅毒への感染リスクを高めるのはアナルセックスと同じ図式です。
実際に、オーラルセックス経由で感染した梅毒患者は15~20%もいるというデータがあります。
女性患者数も後を追うように増加
このグラフには出ていないのですが、この数年間、女性の梅毒患者数は男性を上回る勢いで増加しています。
患者数そのものは男性に比べるとまだまだ少ないですが、その数は2010年から2015年の5年間で約5倍にも増えています。(男性は同期間に約3倍増えています)
女性患者の急激な増加は男性の患者数の増加が波及していると考えられます。(バイセクシュアルの男性から感染している?)
それにプラスしてオーラルセックスの普及が男女間での感染も広げているでしょう。
まとめてみますと、近年の梅毒患者数の増加は性行為の多様化にともなって増えているといえます。
- 男性同性愛者によるアナルセックスで直腸の病変からの感染
- オーラルセックスの普及によって、口腔型の梅毒病変からの感染
- 男性患者の増加により女性にも感染が広がった
馴染みのないこれらの感染ルートが周知されていないことも、感染を広げている原因の1つでしょう。
梅毒から身を守るためにできること
梅毒にならないためにはセックスをしないのが一番です。
と言ってもこれは現実的ではないですよね。
では梅毒にならないためにはどのような対策があるでしょう?
それにはまず、上に書いたような通常のセックス以外のルートでも梅毒は感染するということの理解を広げることが大事でしょう。
その上で予防策として考えられるのは、やはりコンドームの使用です。
性器以外の部分に病変があると防ぐことはできませんが、梅毒を予防するために第一にするべき予防方法です。
次に、セックスをやめることは無理でも、不特定の人と関係をもつことは出来るかぎり避けるようにしましょう。多数の人と性行為をする人が性病になりやすいのはデータ上も明らかです。
そして、定期的に性病検査を受けて感染の有無をチェックしましょう。
性病は知らない間に感染していても不思議ではない(特定のパートナーしかいなくても相手が浮気していないとは限らない)ので、あなたに決まった相手しかいなくても定期的、少なくとも付き合う相手が変わるごとに性病検査を受けることをおすすめします。
- 性病予防の鉄板、コンドームは梅毒予防にも効果的
- 不特定多数とのセックスや乱交など、派手な性交渉は控えましょう
- 性的に活発な人もそうでない人も性病検査を積極的に活用しましょう
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