白血病という病気は知っていても、それが性行為によって感染するなんてことは、ほとんどの方が知らないと思います。
日本性感染症学会でも成人 T 細胞白血病リンパ腫を性病の分類には入れていないことから、一般の人が白血病がセックスによってうつると言われてピンと来ないのは無理もないのです。
成人型T細胞白血病リンパ腫は母子感染が重要な病気なので、これまで性病としての対策はされてきませんでしたが、最近では性行為による感染も対策を取るべきといわれています。
この記事では成人型T細胞白血病リンパ腫を性病としての面からとらえて解説します。
目次
成人 T 細胞白血病リンパ腫のキャリアは意外なほどに多い!
成人 T 細胞白血病リンパ腫(ATL)というのはHTLV-1というウイルスによって起こる病気です。
血液中の白血球の1種で免疫担当細胞であるT細胞にHTLV-1が感染し、そのT細胞がガン化することで起こる血液のガンです。
地域性があり、日本では九州・沖縄、海外ではカリブ海諸国や中央アフリカに多発します。
キャリアは多く、発症は少ない
これを読んでいる人の中に、成人 T 細胞白血病リンパ腫になった人や、周りでなった人を知っているという人もほとんどいないと思います。
でも、病名を見たことも聞いたこともなくても、成人 T 細胞白血病リンパ腫はけっして珍しい病気というわけではありません。
ウイルスを持ったまま発病しない状態の人をキャリアと呼びますが、日本だけでキャリアは100万人ほどいるといわれています。
これほどまでにキャリアが多いのに、成人 T 細胞白血病リンパ腫の患者がそこまで多くないのはなぜなのでしょう?
実は、キャリアの大部分の人は発症しないからなのです。
では、なぜ一部の人は成人 T 細胞白血病リンパ腫を発症するのか?発症しない人との違いは何なのか?
この理由についてはまだ十分に解明されていません。
成人 T 細胞白血病リンパ腫を性病としてとらえて性感染を防ぐことが未来の子どもを守る
発症する人としない人の違いとして、その人がどのルートで感染したかが重要なことはわかっています。
キャリアの中で成人 T 細胞白血病リンパ腫を発症するのは、ほぼ全員が母子感染した人です。
それに対し、性行為により感染した人が発症するのはきわめてまれです。
このように性行為をして感染したとしても病気になる心配がないため、これまで性感染対策がされてこなかったといえます。
しかし、考えてみてください。
感染した人が女性で、将来、子どもを産むとしたら…。
母親が発症しなくても、生まれてくる子どもは発症するかもしれないのです。
近年は、対策によって母子感染は減ってきているので、これからは性行為による感染の啓蒙や対策も必要でしょう。
HTLV-1の感染経路と潜伏期間
HTLV-1の感染経路
1.性行為
成人 T 細胞白血病リンパ腫ウイルス(HTLV-1)の性病としての経路は、精液中に含まれるHTLV-1に感染したリンパ球を介して起こると推定されています。
なので、男性から女性へのみ感染が成立すると考えていいでしょう。
女性から男性への感染もまれにあるのですが、その感染ルートは解明されていません。
夫婦で夫が感染者の場合、約2年で20%の確率で妻へ感染するとされています。
しかし、性行為で感染した場合に成人 T 細胞白血病リンパ腫発症するのはきわめてまれです。
2.母子感染
母乳中に含まれるHTLV-1に感染した細胞を介して感染するルートで、HTLV-1の感染経路の大半を占めます。
HTLV-1を持っている母親の母乳で育てると20~30%の子どもへ感染がおこりますが、妊婦健診で事前に感染を知り、授乳をしなければほとんど防ぐことができます。
成人 T 細胞白血病リンパ腫を発症するのは、ほとんどが母子感染した人です。
たとえ母子感染したとしても、実際に発症するのはそれほど多くなく、生涯に発症する確率は5%ほどです。
3.輸血による感染
以前は輸血による感染も問題でしたが、献血時にHTLV-1の検査が行われるようになってからは、このルートでの感染はなくなりました。
性行為によるHTLV-1感染リスクをさけるためには
上に書いたように、性行為での感染は男性から女性へ精液を介してうつります。
なので、コンドームを適切に使用して精液が膣内に入らないようにすれば、ほとんど防ぐことができるでしょう。
感染の経路を考えると、膣性交だけでなく、アナルセックスで感染することも十分考えられます。
AIDSも関わってくるのでHTLV-1との関連は明らかではありませんが、海外では同性愛者の直腸肛門悪性リンパ腫が多いのです。
どちらにせよコンドームを使用することが大事ですね。
HTLV-1の潜伏期間
HTLV-1が感染してから発症するまでの期間は非常に長く、30~70年もの潜伏期間があります。
ほとんどが母子感染なので、発症時の平均年齢は約60歳です。
成人型という名前の通り40歳以上の大人がなる病気なのです。
成人 T 細胞白血病リンパ腫の患者数
1年間に10,000人のHTLV-1キャリアのうち6人ほどが発症するので、キャリアが100万人いることから、日本では年間600人程度の成人 T 細胞白血病リンパ腫患者があらたに発症している計算になります。
病気のタイプにより4年生存率は5%~60%と大きく差がありますが、全患者数でも数千人ほどでしょう。
成人 T 細胞白血病リンパ腫の症状
男性と女性で症状は変わりません。
主に次のような症状が出ます。
- 全身のリンパ節が腫れる
- 肝臓・脾臓が腫れる
- 原因不明の発熱
- 免疫が低下して感染症を起こしやすい(日和見感染症)
- 皮膚に赤い発疹やしこりができる
- 腹痛や下痢などの消化器症状
- 貧血
- 全身倦怠感
- 高カルシウム血症による便秘・吐き気・意識障害
5つの病気のタイプ
成人 T 細胞白血病リンパ腫には5つの病気のタイプがあり、それぞれに経過や生存率が大きく異なってきます。
早急な治療が必要なタイプ(aggressive type)
急性型
血液中に成人 T 細胞白血病リンパ腫細胞(ATL細胞)が急速に増えている状態です。
ATL細胞はフラワーセルと呼ばれる異常リンパ球で花びら状の細胞核を持つ特徴的な細胞です。
感染症や高カルシウム血症がみられ、早急な治療を必要とします。
リンパ腫型
ATL細胞がリンパ節で増殖している状態で、血液中にフラワーセルはみられません。
急性型と同様に急速に症状があらわれるため、やはり早急な治療を開始しなければなりません。
早急な治療を必要としないタイプ(indolent type)
慢性型
血液中の白血球が増加してATL細胞が出現しますが、その増殖のスピードは遅く、症状をほとんど伴いません。
治療せずに経過観察をすることがほとんどです。
くすぶり型
血液中の白血球数は正常ですが、血液、肺、皮膚にATL細胞があらわれます。
無治療で経過観察をすることが多いですが、皮膚に対して治療することもあります。
早急な治療を必要としないタイプが転化するタイプ
急性転化型
慢性型やくすぶり型で経過観察していたものが、途中から急性化するタイプがあります。
この場合は急性型と同様に早急な治療を必要とします。
急性転化する確率はまだはっきりしていません。
急性転化するとしても、慢性型で2~5年、くすぶり型ではそれ以上の時間がかかるとされます。
成人 T 細胞白血病リンパ腫の治療方法
主に抗がん剤による化学療法が行われます。
30~70%で改善がみられますが、早期に再発が起こることが多く、完全な治癒はまず望めません。
他に、造血幹細胞移植が行われます。
年齢に制限があり、適合するドナーも必要です。
しかし、実施できれば唯一、完治が期待できます。
成人 T 細胞白血病リンパ腫の検査
疑われる症状から検査で判明することもありますが、人間ドックでたまたま見つかることもあります。
疑いのある場合は血清抗 HTLV- 1抗体を調べます。
陽性ならHTLV-1を持っているということです。
精密検査で次の2項目のどちらかに該当する場合に成人 T 細胞白血病リンパ腫と診断されます。
- 血液中でみられる異常な細胞がT細胞(フラワーセル)
- 腫れたリンパ節や皮膚のしこりがT細胞のガンと判明
成人 T 細胞白血病リンパ腫は自宅では検査できません
成人 T 細胞白血病リンパ腫を調べる検査キットは存在しません。
該当するような症状がある場合は、すぐに病院で検査を受けましょう。
急性型やリンパ腫型は非常に予後の悪い病気です。
40歳以上の方で、おかしいなと思うことがあれば躊躇することなく受診してください。
潜伏期間からして、若い世代の人はかかる心配のない病気です。
しかし、キャリアの可能性はあり、パートナーへ感染させる可能性はあるので、HTLV-1を持っているかどうかは知っておきたいですね。
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